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最高裁判所第一小法廷 平成3年(行ツ)15号 判決 1991年9月19日

新潟県西蒲原郡吉田町大保町七番三七号

上告人

株式会社富士トレーラー製作所

右代表者代表取締役

皆川功

右訴訟代理人弁護士

荒井尚男

小林彰

同 弁理士

黒田勇治

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 深沢亘

右当事者間の東京高等裁判所平成元年(行ケ)第二六二号審決取消請求事件について、同裁判所が平成二年一〇月一一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小林彰、同黒田勇治の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大内恒夫 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平 裁判官 味村治)

(平成三年(行ツ)第一五号 上告人 株式会社富士トレーラー製作所)

上告代理人小林彰、同黒田勇治の上告理由

一 原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背があるから、破棄を免れないものである。

1 原判決は、審決の取消事由の存否につき、「畦叩装置は、土面に作用する農作業機である点において前掲の各種農作業機と同一の技術分野に属するものであり、また、当該装置の作業面に土が付着することが好ましくないためその付着防止策を講じる必要がある点において技術的課題を共通にするものであって、これまで畦叩装置に離泥体を設けたものがなかったからといって、畦叩体に離泥体を設けることが当業者にとって困難といえないから、原告の前記主張は採用できない。したがって、相違点2について、第一引用例記載の考案において、畦叩体に土が付着するのを防止するため、畦叩体に離泥体を設けることは、当業者がきわめて容易になし得ることと認める、とした審決の判断に誤りはない。」と判示する(原判決第二一丁裏第八行乃至第二二丁表第八行)。

2 しかしながら、考案の進歩性は、考案を構成することの難易の問題である.考案の実体は、考案の「目的」でもなく、また考案の「効果」でもなく、考案の「構成」自体である。したがって考案の進歩性を判断するにあたっては、考案の構成を対象とし、その難易によって進歩性の有無を判断すべきであることはいうまでもない

勿論、考案の目的は考案の起因であり、考案の効果は考案の結果であるから、考案の目的並びに効果を補充的に参酌することは許されるが、考案の進歩性の判断にあたり、考案の中心が構成自体にあることを決して忘れてはならない。

3 しかるに原判決は、右「離泥体を備える畦叩体」に関する進歩性の判断手法として、畦叩装置の作業面に土が付着することが好ましくないためその付着防止策を講じる必要がある点において技術的課題(=目的)を共通にする、との「目的」並びに「効果」の予測性に着目し、これを重視し、この結果誤った結論を導いたものである。

確かに甲第五号証、及び乙第一ないし第一一号証によれば、本件出願当時犂及びプラウ、鎮圧輪を有する移植機、農耕用鎮圧ローラー、耕転機用作条器、カルチパッカー、耕うん装置等の各種農作業機において、泥の付着により作業能率が低下することのないように離泥材を用いることが開示されているとしても、右「離泥体を備える畦叩体」は畦叩装置という特定した機械においては全く開示されておらず、全く存在しておらず、それを示唆する記載も全くない。

むしろこのように泥の付着に関する多数の出願が存在することを重要視し、「離泥体を備える畦叩体」についての考案の進歩性の判断にあたっては、考案の進歩性があるというその補充的判断資料として採用すべきであると云わざるを得ない.

4 そして周知技術というのはその技術分野において一般的に知られている技術であって、例えば、これに関し相当多数の公知文献が存在し、又は業界に知れわたり、若しくはよく用いられていることを要すると解するのが相当であり(発明協会発行竹田稔外二名編著特許審決等取消訴訟の実務一五二頁及び東京高昭和五〇・七・三〇判決取消集七三頁)、しかも第一引用例記載のものに周知技術を適用して出願に係る考案の構成を得ることがきわめて容易であったとするためには、当該周知技術が引用例記載のもの及び本願考案の技術分野と同一であるかあるいは比較的近接した又は類似の技術分野に属し、かつ技術思想的にこれらの考案に近接し、これと共通の要素をもつものであることを要するとするのが判例の態度であり(前掲著一八二頁及び東京高昭和六三・五・二四判決特許と企業二三五号三〇頁)、これが通説なのである.

しかるに本件出願前のいずれの文献にも畦叩体の内面に離泥体を設けるという技術的思想は全く存在しなかったし、右「内面に離泥体を備えた畦叩体」は全く存在しなかったし、かかる技術的思想は本願考案によって初めて明らかにされたところであり、しかも本願考案のものと引用例記載の技術分野とは同一ではなく、あるいは比較的近接した又は類似の技術分野に属するものでもなく、かつ技術思想的にこれらの考案に近接し、これと共通の要素をもつものでもないとすべきなのである。

5 また各種装置において一見構成に困難性がないように認められるものでありながら、実際は長年の間当業者が極めて容易に相当し得なかったものは多々あり、今までからも各社の整畦機はあったにも拘らず、従来品に比べて爆発的な売れ行きを示し、農家から賞賛を得、かつ模倣品までも出回っている事実は、右「離泥体を備える畦叩体」の出現があったからこそ真の実用化が可能となったからなのである。このような商業的成功も法目的達成上忘れてはならないのである。

6 よって原判決がなした本願考案の進歩性の判断には論理に飛躍があり、審理不十分であって、この結果本願考案の進歩性を誤って否定したものといわざるを得ないのである。

二 以上の通り、原判決には実用新案法第三条第二項を誤って解釈適用しており、判決に影響を及ぼすこと明らかなる違背があり、破棄さるべきものである。

以上

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